書きながら考えが変わるのはなぜ?「思考の途中」を見直す読書メモ

読んだ本の内容を人に説明しようとして、分かったつもりだったところで言葉が止まる。そんな経験はありませんか。2026年10月に発表された論文では、書くことを「できあがった考えを写す作業」としてだけでなく、「書きながら考えを組み立てる作業」として説明するモデルが提案されています。この記事では、その考え方を手がかりに、読書メモを「書いて終わり」にしない使い方を紹介します。

書くと考えが整理されるのはなぜ?

論文では、書きながら考えが組み立てられていく流れを、次の5つの段階のくり返しとして説明しています。

  1. 思い出す:関係しそうな知識や考えが頭に浮かぶ
  2. 頭の中で試す:浮かんだ考えを組み合わせたり、並べ替えたりしてみる
  3. 書き出す:言葉にして、目に見える形で外に出す
  4. 点検する:書いたものを読み返し、「これで合っているかな」と確かめる
  5. 組み直す:点検した結果をもとに、考えの組み方を変える
思い出す、頭の中で試す、書き出す、点検する、組み直すの五段階が循環する図。書いたあとの点検と組み直しが次に考える材料になることを示している。
書いたあとの「点検」と「組み直し」のくり返しに注目(Ríos-Flórez et al., 2026の理論モデルをもとに筆者作成)

2の「頭の中で試す」には作業記憶、4の「点検する」にはメタ認知という働きが関わるとされています。作業記憶は、考えるために情報を一時的に保ち、扱う働きです。メタ認知は、自分の理解や判断を一歩引いて点検する働きです。

この流れの中で著者らが特に重視しているのが、4と5です。点検と組み直しがくり返し働くとき、書くことが知識を組み立てる仕組みとして機能しうる、と提案しています。

つまり、注目したいのは「書いた量」よりも「書いたあと」です。書いた言葉が、次に考えるための材料になる。そこに、書くと考えが整理されることについての、このモデルなりの説明があります。

今日からできる「読み返す読書メモ」

ここからは、論文のモデルを手がかりにした、私の読書・学習への応用提案です。自分の理解を点検するための選択肢として、3つのステップで紹介します。

ステップ1 確かめたいことを1つ選ぶ

読んだ範囲から、確かめたい主張を1つだけ選びます。「著者は何を勧めているのか」「なぜその結論になるのか」など、本文に戻って確かめられる問いが出発点です。一度に全部を整理しようとしなくて大丈夫です。

ステップ2 今の理解を「本」と「私」に分けて書く

その問いに対する、今の時点の答えを書きます。このとき、著者が述べたことには「本:」、自分が考えたことには「私:」と頭につけて分けておくのがおすすめです。

読書メモを本と私に分ける図。本は著者が述べたこととして本文で確認し、根拠と条件を添える。私は自分が考えたこととして仕事や生活で考え、応用や仮説として扱う。本と私を混ぜないことが中心のメッセージ。
「本:」は本文で確かめ、「私:」は自分の応用案として扱う。Ríos-Flórez et al., 2026の理論モデルを手がかりに筆者作成

長さは自由です。うまく説明できないところがあれば、「理由のつながりがまだ曖昧」のように、確かめたい点をそのまま残しておいて構いません。

ステップ3 本文と照らして、直すか、根拠を添える

書いたら、該当する本文に戻ります。条件が抜けていないか、著者の説明に自分の推測が混ざっていないか、根拠になる箇所を示せるか。このどれか1つを確かめてみてください。

たとえば、時間術の本を読んで、こうメモしたとします(説明のための例です)。

本:大きな仕事は分けるといい

読み返すと、「どのくらいの大きさに?」「どんな仕事で?」という問いが浮かびます。本文に戻って確かめたうえで、次のように書き直します。

本:締め切りが先の大きな仕事は、1回で終わる量に分けると手をつけやすい(p.○○)

私:来月の企画書づくりに、そのまま使えそう

最初のメモを書いたところが「書き出す」、読み返して問いが浮かんだところが「点検する」、条件を加えて書き直したところが「組み直す」に当たります。

確かめた結果、最初のメモがそのままで良いこともあります。そのときは、根拠のページを添えるだけで十分です。直すこと自体を目標にする必要はありません。

学習でも同じように使えます。説明を書いたあとに教材へ戻り、「定義」「理由」「自分の例」のどれを確かめるかを1つ決めてみてください。

私がこの研究に注目した理由

私自身も、トレードの「検証」を扱った本を読んだときに、似た経験をしたことがありました。検証とは、売買のルールが過去の値動きでどの程度機能したかを、データで確かめる作業のことです。

読み終えた直後のメモに残っていたのは、検証するときの観点や、実際に使うときの注意点が中心でした。 ところが、しばらくしてからメモを見返し、本を開き直すと、目に留まったのは別のところでした。本の中で検証されているルールそのものに、さまざまな考え方があったのです。「こんなルールの考え方もあるのか」と、そこで初めて気づきました。

最初のメモが間違っていたわけではありません。そのときの私は、検証の進め方に関心を向けて読んでいた、ということです。メモが残っていたからこそ、自分の読み方の変化に気づくことができました。

読み終えた直後に残した言葉は、その時点の理解を示すものです。「こう受け取った」と置いておけば、あとからどこを確かめればよいかが見えてきます。

そこで私が大切にしたいのが、著者が述べたことと、自分がそこから考えたことの区別です。「本:」と「私:」を分けるのは、そのための小さな工夫です。前者は本文で確かめるもの、後者は自分の仕事や生活で試すもの、と役割が分かれるので、次に読み返すときの問いも具体的になります。

この研究について

取り上げたのは、2026年10月8日に『Front Cognit』で公表された、Writing is thinking: toward a neuropsychological model of scientific writing as knowledge constructionです。著者はRíos-Flórez J、Muñoz-Giraldo A、Rodríguez Bustamante A、Castañeda-Quirama Tです。

どんな種類の研究か

研究デザインは、神経心理学や作業記憶、メタ認知などの知見を統合した、理論モデルと研究課題の提案です。参加者を集めて成績を比べる実験ではなく、対象者の標本はありません。

提案されたモデルの略称はMNIECです。科学的な執筆を、すでにできあがった知識を伝える行為に加え、書きながら知識を組み立てる活動として位置づけています。

モデルは、実行機能、拡張された作業記憶、意味のシミュレーション、知識についてのメタ認知的な監視という四つの系を統合しています。

研究が提案していること

この記事の前半で紹介した「思い出す・頭の中で試す・書き出す・点検する・組み直す」は、この五段階を日常の言葉に置き換えたものです。

論文は、このモデルから検証可能な四つの仮説と、実験の枠組みも導いています。今回確認できる成果は、説明のためのモデルと、それを今後どう調べるかという研究課題の提示です。

この研究からは、まだ言えないこと

要旨には、モデルを直接確かめた実証試験や、介入による成果は報告されていません。そのため、理解度や記憶がどれほど変わるかといった効果の大きさは、この研究からは示せません。

また、この研究が扱っているのは科学的な執筆です。一般の読者の読書メモや日常の学習で同じ過程や効果が生じるかは、別の検証課題として残ります。

メモの適切な長さ、手書きと入力の違い、読む速さへの影響についても、比較結果はありません。この記事で紹介した読書メモの方法と例は、これらの優劣を示すものではなく、私の応用案です。

研究から言えることと、まだ言えないことを比較する図。言えることは科学的執筆の理論モデル、五段階の循環、検証可能な仮説。まだ言えないことは読書メモの直接的効果、理解度や記憶の改善幅、速読への直接効果、手書きと入力の優劣。
研究から確認できる範囲と、別の検証が必要な範囲を分ける(Ríos-Flórez et al., 2026の理論モデルをもとに筆者作成)

まとめ

書いたメモを読み返すとき、「この言葉の根拠はどこにあるだろう」と本文へ戻ってみる。その往復を、読書や学習の選択肢として取り入れてみてはいかがでしょうか。

メモに残すのは、整った結論でも、まだ確かめたい問いでも構いません。私が勧めたいのは、その言葉を足場にして、自分がどう受け取ったかを確かめる読み方です。

よくある質問

書くと理解力が上がることを証明した研究ですか?

いいえ。今回の論文は、科学的な執筆を、知識を組み立てる過程として説明する理論モデルの提案です。要旨には、モデルを直接確かめた実証試験や、理解力への介入効果は報告されていません。

読書メモは短くてもよいですか?

確かめたい内容を扱える長さであれば、短くても始められます(角田和将の応用提案)。今回の研究には、メモの長さによる効果の比較はありません。本文と照らして見直せるかどうかを目安にしてください。

読書メモには何を書けばよいですか?

著者が述べたことには「本:」、自分が考えたことには「私:」と分けて書く方法がおすすめです。書いたあとに本文へ戻り、根拠や条件を確かめます。これは今回の理論モデルを手がかりにした応用案です。

作業記憶とメタ認知とは何ですか?

作業記憶は、考えるために情報を一時的に保ち、扱う働きです。メタ認知は、自分の理解や判断を点検する働きです。今回の論文のモデルでは、作業記憶は頭の中で考えを試す段階に、メタ認知は書いた内容を点検する段階に関わるとされています。

参考にした研究

Ríos-Flórez J、Muñoz-Giraldo A、Rodríguez Bustamante A、Castañeda-Quirama T. Writing is thinking: toward a neuropsychological model of scientific writing as knowledge construction. Front Cognit. 2026年10月8日公表。

研究デザイン:理論モデルおよび研究課題の提案。対象者の標本なし。本記事の研究紹介は、提供されたResearch DBの書誌情報、要旨、研究デザイン、主要知見、限界の記載に基づきます。